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食とワインは、もっとエンターテインメントになれる。

― 日出町の食とポルトガルワインで旅した夜

先日、JALと俺の株式会社が開催する「旅するメーカーズディナー」にお招きいただき、
東京・大手町の「俺のフレンチ グランメゾンTOKYO」へ行ってきました。

今回のテーマは、大分県日出町(ひじまち)。

関アジや天然ヒラメ、日出ポーク、トマト、白茄子、桃など、日出町を中心とした大分の食材を使った料理に、
ポルトガルワインをペアリングする一夜限りのディナーです。

料理とワインが本当においしかった。
もちろん、それだけでも十分に素晴らしい夜でした。
でも僕が今回、それ以上に面白いと感じたのは、「食とワインの見せ方」でした。

まるで劇場。食事そのものがエンターテインメントになる

会場となった「俺のフレンチ グランメゾンTOKYO」は、普通のレストランとは少し違います。

天井高約7mの空間に、300インチの巨大スクリーン。
ステージにはスタインウェイのグランドピアノが置かれ、音響・映像設備も本格的。

公式にも「ステージを中心に設計された劇場型空間」と紹介されています。

この日は巨大なスクリーンに日出町の風景や食材が映し出され、安部徹也町長から町の紹介もありました。

料理を食べながら、その食材が生まれた土地を見る。
これは、思っていた以上に体験を変えます。

「大分県産の食材です」とメニューに書いてあるのと、その土地の海や風景を目の前の巨大スクリーンで見ながら食べるのとでは、同じ料理でも感じ方が違う。

料理を食べるというより、その土地の物語ごと食べている。

そんな感覚がありました。

そして興味深かったのが、日出町とポルトガルとのつながり。

日出町は2025年9月、ポルトガルのモンテモール・オ・ヴェーリョ市と姉妹都市協定を締結。

16世紀に宣教師フランシスコ・カブラルとともに日出町を訪れたとされるポルトガル商人・冒険家フェルナン・メンデス・ピントを通じた歴史的な縁も紹介されました。

この日は駐日ポルトガル大使も会場を訪れ、挨拶。
日出町長と駐日ポルトガル大使が同じ会場にいて、日出町の食材を使った料理にポルトガルワインを合わせる。

つまり今回のペアリングは、単に「料理に合うワインを選びました」という話ではありません。
食を通じて、日出町とポルトガルという二つの土地をつないでいる。

ここが、地域プロモーションの仕事もしている僕には、とても面白く映りました。

日出町の食材を、グランメゾンの料理に

この日の料理も、きちんと記録しておきたいと思います。

最初の一皿は、「豊後水道より“関アジ”と大分県産素麺のガスパチョ キャビア添え」
これに合わせたのが、ポルトガルのスパークリング、レゼルバ ブリュット/ムルガニェイラ。

続いて、「“真那井トマト”の旬感パイ包み焼き」には、
マイアス ロゼ/キンタ・ダス・マイアス。

魚料理は、「“天然ヒラメと白雪姫” ラベンダー香るソース “別府湾の太刀魚”のベニエと“田中農園の白茄子”のソテー」
これには、レゼルバ ホワイト/エスポラン。

そして肉料理、「“日出ポーク”のアレンテージョ グランメゾンのスタイルで」には、
リズボア カステラン/ウーゴ・メンデス。

最後のデザートは、「“日出の桃”のピーチメルバ シャンパンと“蜂の音”のソース」

そして締めくくりは、トウニーポート10年/ニーポート。

どれも美味しくいただきましたが、この日の料理で僕が特に印象に残ったのが、
白いとうもろこし「白雪姫」でした。
地元でもなかなか手に入らないという希少なとうもろこしで、この日は魚料理のスープとして使われていました。

とうもろこしのやさしい甘みももちろんですが、僕が「にくいなあ」と思ったのが、その見せ方。
白いお皿に、白いスープ。
「白雪姫」という名前まで含めて、とても美しい一皿でした。こういう演出に出会えるのも、食事の楽しさだと思います。

そして、もうひとつ忘れられないのが最後のデザート。
「日出の桃」を使ったピーチメルバを、長谷川純一さん自らがステージ前に立ち、フライパンを手にその場で仕上げていきます。

ここからが面白い。

ステージでは、スタインウェイのグランドピアノによる生演奏が始まり、長谷川さんはその音楽に合わせて調理を進めていく。
その手元は巨大スクリーンに映し出され、会場のみんなが料理が出来上がっていく様子を見守ります。

そしてデザートが完成した、その瞬間。ピアノの演奏もぴたりと終わる。会場からは自然と歓声と拍手が上がりました。これが実に楽しかった。

料理を食べるだけではなく、出来上がっていく時間までひとつのショーにしてしまう。
料理、音楽、映像、照明、そして最後は会場にいる人たちの拍手までが一体になる。

この夜、僕が一番印象に残ったのは、料理やワインそのもののおいしさはもちろん、
「食べる」という体験そのものを楽しませてくれたことだったのかもしれません。

日出町の食材を味わい、ポルトガルワインを飲み、その土地やワインの話を聞き、最後には音楽とともに料理が完成する。

食とワインは、もっとエンターテインメントになれる。

そんなことを改めて感じた、とても楽しい夜でした。

世界のワインは、いまどこへ向かっているのか

料理の合間には、ソムリエの長谷川純一氏によるポルトガルワインのミニセミナーもありました。これがまた面白かった。

ポルトガルは250を超える土着品種を持ち、世界遺産に登録されたブドウ畑を擁し、世界のコルク生産でも重要な位置を占めるワイン大国です。

さらに長谷川氏の話で僕が特に興味を持ったのが、現在の世界のワイントレンド。
紹介された「知っておきたい世界のワインキーワード10選」は、

Regenerative Wine(リジェネラティブ・ワイン)
再生型農業によって造られるワイン。

Organic Wine
有機栽培ブドウによるワイン。

Biodynamic
自然のリズムを生かした農法。

Natural Wine
人為的介入をできるだけ抑えたワイン。

Orange Wine
白ブドウを果皮とともに醸造するスタイル。

PIWI
病害への耐性を持つブドウ品種。

Low Alcohol
低アルコールという選択。

No Alcohol
ノンアルコールワイン。

Light Red
冷やして楽しむこともできる、軽やかな赤。

Premium Rosé
季節商品ではなく、年間を通して楽しむ高品質ロゼ。

こうして並べてみると、世界のワインが向かっている方向がなんとなく見えてきます。

「たくさん飲む」から「どう楽しむか」へ

世界のワイン市場は、決して順風満帆ではないという事実を、各国の消費データが伝えています。

OIVが公表した2025年の推計では、世界のワイン消費量は2億800万hl。
前年比2.7%減
主要市場では米国、フランス、イタリア、ドイツ、英国、スペインなどが軒並み前年を下回りました。

一方で日本は330万hl、前年比6.8%増、ポルトガルも560万hl、前年比5.6%増となっています。

ただ、僕がもっと興味深いと思うのは、単純な消費量の増減ではありません。

先ほどの10のキーワードを見ると、

・環境への負荷を減らす。
・土壌そのものを再生する。
・アルコールを減らす。あるいは飲まない。
・赤ワインを冷やして軽やかに楽しむ。
・ロゼを夏だけのものにしない。

など、ワインの価値観そのものが広がっている。

これまでワインの世界では、産地、品種、ヴィンテージ、格付けといったものが非常に大切にされてきました。
もちろん、それらが大切であることはこれからも変わらないでしょう。

でもこれからは、

「何を飲むか」と同じくらい、「どう楽しむか」が大切になる。

僕はそんな気がしています。

ワインは、もっとエンターテインメントになれる

振り返ってみると、この夜の魅力は、一本のワインや一皿の料理だけでは語れません。

日出町の食材が料理になり、ポルトガルワインと出会う。
巨大なスクリーンには、その食材が生まれた土地の風景が映し出される。
料理の合間にはワインの話があり、ポルトガルの文化や歴史を知る。

東京・大手町の地下にいるのに、いつの間にか大分県日出町へ行き、そこからポルトガルまで旅している。
これって、すごく面白い。

ワインは、もっとエンターテインメントになれる。

食も同じです。

そして、その土地のおいしいものを「売る」だけではなく、背景にある風景や人、文化まで一緒に体験してもらえたら、地域の魅力はもっと伝わるんじゃないでしょうか。

そんなことを考えながら、最後の10年熟成トウニーポートをゆっくりと楽しみました。


店を出ると、日曜日の大手町。
昼間の熱気をそのまま残したような、蒸し暑い東京の夜でした。

けれど、いつもは人が行き交うオフィス街には、日曜日らしい静けさがある。
灯りのついた高層ビルの間を歩いていると、さっきまでの音楽や歓声が嘘だったように、街は静かでした。

大分の日出町から、遠くポルトガルまで。
ほんの数時間、食とワインで旅をして、また東京に戻ってきた。

熱を残した東京の夜に、さっきまでグラスの中にあった旅の余韻だけが、静かに残っていました。

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