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地域食材 × ワインが生む“グルメツーリズム”:観光振興と売上アップの新戦略

観光立国を掲げる日本において、「地域の食」は常に重要な観光資源として位置づけられてきました。伝統的な郷土料理や旬の食材はもちろん、農業や漁業の現場そのものが観光資源になるなど、「食」は地域ブランドの中核を担ってきたのです。
例えば北海道の海鮮市場や、九州の黒豚を使った料理などは、国内外から観光客を呼び込む大きな要素となっています。

しかし実際には、「地域に誇れる食材はあるけれど、それをどう観光に結びつけるか分からない」「名物料理はあるが、観光客がそのためだけに訪れる動機づけにまでは至っていない」といった課題を抱える自治体や観光団体も少なくありません。食材そのものの魅力は強くても、それが観光商品として体系化されなければ、観光振興や地域経済の活性化につながりにくいのです。

近年、こうした課題を解決するヒントとして注目を集めているのが、地域食材とワインを掛け合わせた“グルメツーリズム”です。
ワインは世界共通の文化的アイコンであり、料理の価値を引き立てる存在であると同時に、観光コンテンツとしても強い力を持っています。
たとえばフランスのボルドーやイタリアのトスカーナでは、ワインそのものが「旅の目的」になっていますが、そこに地域の食材が組み合わさることで、観光客の体験価値はさらに高まります。

この発想を日本の地域観光に応用すれば、食材の魅力を「売場」や「食卓」だけでなく、「旅の目的」へと昇華させることが可能になります。つまり、ワインを切り口に地域食材の価値を再編集することで、新しい観光戦略が生まれるのです。

ワインが地域食材を“観光資源”に変える理由

ワインと食材の組み合わせは、単なるグルメ体験にとどまりません。そこには観光振興につながる三つの大きな力があります。

1. 物語性が生まれる

食材単体では「美味しい」で終わってしまうことも多いですが、ワインと掛け合わせることで「地域の風土・歴史・人」を背景にしたストーリーが立ち上がります。例えば「地元漁港で水揚げされた魚介と白ワイン」というだけで、潮風や港町の活気といった情景が旅先での記憶として浮かびやすくなります。さらに、ワイナリーの生産者がどのようにブドウを育て、どんな想いでワインを醸造しているのかを知ることで、食材とワインの組み合わせは単なる食事ではなく「物語の体験」へと変化します。

2. 体験として形にできる

ワインは「飲むだけ」ではなく、「味わう体験」として設計できるのが大きな特徴です。例えば、地元食材とワインを組み合わせたマルシェ、収穫体験にワインを添えたピクニックイベント、温泉街での地元食材ディナーとペアワインなど、観光客が「その土地ならでは」と実感できる体験に仕立てることができます。こうした体験は、単なる食事にとどまらず、旅の中で特別な思い出として残り、リピーターや口コミによる集客にもつながります。

3. 外向き発信に強い

ワインはSNS映えするビジュアルを持ち、海外観光客にとっても分かりやすい価値基準です。赤・白・ロゼと色彩豊かなワインの写真は、料理と組み合わせることで視覚的な訴求力を増し、SNSでの拡散効果を期待できます。また「Wine」という言葉自体が世界共通語であり、国際的に訴求しやすいのも強みです。地域の食材を「Wine Tourism」という枠組みで発信することは、海外市場へのアクセスを広げる入口にもなります。

活用シナリオの具体例


グルメツーリズムを設計する際に、ワインはどのように組み込めるのでしょうか。ここでは、観光客の体験の流れや地域事業者の役割を含め、より具体的なシナリオをご紹介します。

漁港 × ワイン  

漁港を舞台にした観光体験は、地域ならではの臨場感が魅力です。例えば、早朝に観光客を漁港へ案内し、漁師の競りの様子を見学。その後、朝市で水揚げされたばかりの魚介を選び、その場で調理してもらい、キリッと冷えた白ワインと合わせて提供します。

こうした体験は単なる「食事」ではなく、「漁師の暮らしを体感するツアー」へと変わります。観光客にとっては港町の賑わいや潮の香りを感じながら味わう魚介が、旅の忘れられない思い出となります。また、漁協や地元飲食店と連携することで、観光客は食事後に加工品や鮮魚を購入し、地域の物販売上増加にもつながります。結果として「漁港そのものが観光資源」となり、季節ごとの漁を切り口にリピーター獲得も期待できます。

農産物 × ワイン

農園での収穫体験にワインを組み合わせることで、「食べる楽しみ」と「自然に触れる体験」が同時に味わえるコンテンツが誕生します。例えば、観光客が農園でトマトやブドウを収穫し、その場で簡単な調理体験を楽しみながら、地元のワインと一緒に味わう「ピクニック型ツアー」を企画できます。

ワインボトルには農園や地域のロゴを入れた限定ラベルを使用すれば、参加者は写真を撮りたくなり、SNSで自然に拡散されます。特に若年層やファミリー層にとっては「食育体験」としても魅力的で、親子で楽しめる観光プログラムとして差別化できます。さらに農園側は、直売所やオンラインショップにつなげることで、ツアー後も長期的な収益を確保することができます。

温泉街 × ワイン

温泉とワインを組み合わせた「滞在型体験」は、観光客の宿泊消費を増やす強力な手段です。例えば、温泉旅館での夕食を「地元食材を使った会席料理×ソムリエ厳選ワイン」として提供。料理一品ごとに最適なワインをペアリングし、料理人やソムリエが解説を加えることで、夕食そのものが「学びと体験を兼ねたイベント」へと変わります。

また、昼間には温泉街の散策とセットで「ワイン試飲チケット」を配布し、地元の飲食店やワイナリーで使える仕組みにすれば、街全体の回遊性も高まります。観光客は「泊まる → 食べる → 街を歩く → ワインを買う」という流れを自然に体験し、結果として宿泊消費額と地域全体の売上が上がるモデルをつくることができます。

フェス型イベント  

地域の食材をテーマにした食フェスは各地で開催されていますが、そこにワインを組み込むことでイベントの華やかさや集客力は格段に高まります。例えば「牡蠣フェス×ワイン」「夏野菜フェス×ロゼワイン」といったテーマ設定にすれば、来場者は「食材とワインのマリアージュ」を楽しむ新しい体験が得られます。

さらに、フェスには地元のワイナリー、生産者、飲食店が出店し、試飲・販売・料理提供を行うことで、地域一体のプロモーションにつながります。SNSでの拡散効果を高めるために、来場者が「自分だけのペアリングセット」を作れるブースを設ければ、投稿される写真や動画はイベントの広告塔となります。結果として、地域外からの集客はもちろん、地域住民にとっても「誇れるイベント」となり、継続的な観光資源へと成長していくのです。

成果を生むための三つのポイント


グルメツーリズムを成功に導くためには、単に「地域食材にワインを添える」という表面的なアレンジでは十分ではありません。観光資源として定着させ、継続的に成果を上げるには、戦略的な設計と実行が不可欠です。ワインと食材を組み合わせた体験を、どのように「旅の目的」として位置づけ、いかに地域の魅力を差別化し、最終的に地域経済の循環につなげるか。この視点を持つかどうかで、取り組みの効果は大きく変わってきます。

1. 食材を“旅の目的”に変える

観光客にとって「食べるために行く」という動機づけを作ることが、グルメツーリズムの最大のカギです。ただ美味しいだけでは他地域との差別化は難しく、「ここでしか味わえない」という要素が必要となります。そのためには、食材そのものに物語や体験を重ねることが重要です。

例えば「ただの牡蠣」ではなく、「〇〇湾の特定の岩場で育ち、潮の満ち引きによって旨味が凝縮される牡蠣」といった説明を加え、さらに「地元の白ワインと合わせることで初めて完成する味わい」とすれば、それは立派な「旅の目的」になります。観光客は料理そのものだけでなく、背景にある風土・歴史・生産者の思いを含めて体験するため、記憶に残りやすく、再訪や口コミにつながりやすいのです。

2. ワインを“差別化の装置”として使う

現在、日本各地で特産品を活用した観光コンテンツが数多く展開されています。しかし、地域ごとに「魚が新鮮」「野菜が美味しい」という強みを打ち出しても、国内外の競争の中では埋もれてしまうリスクがあります。ここで効果を発揮するのが「ワイン」という差別化要素です。

ワインは国際的に通じる価値基準を持ち、世界中で「特別な体験」を象徴する飲み物と認識されています。そのため、同じ地域食材でも、ワインを組み合わせることで「国際的な観光商品」へと昇華することが可能になります。例えば「地元産和牛のステーキ×赤ワインのマリアージュ体験」「旬の山菜料理×ロゼワインのペアリングディナー」といった企画は、食材単体では実現できない高級感や独自性を演出します。つまり「食材+ワイン=体験」という新しい構図が、地域のグルメ観光を他と一線を画す差別化要素となるのです。

3. 観光と経済を同時に動かす仕組みを設計する

グルメツーリズムを真の成功に導くには、観光客が「食べて終わり」で帰ってしまう状況を避けることが欠かせません。食体験を入口として、その後に「買い物」「宿泊」「再訪」へと自然に誘導できる仕組みを設計することがポイントになります。

例えば、ワインペアリングディナーを楽しんだ観光客が、気に入ったワインをその場で購入できるようにする。また、宿泊施設や地域の飲食店で「ワインと地域食材のセットプラン」を販売することで、宿泊や消費を促す。さらに、イベント後にオンラインショップやふるさと納税と連動させれば、観光客が帰宅後も地域の食材やワインを購入し続ける流れを作ることができます。

このように、観光と経済を同時に動かす仕組みを設計することで、一過性のイベントではなく、持続的な地域振興が実現します。観光客の「一食」が、宿泊・物販・リピーター訪問といった多方面の収益に波及し、地域全体を潤す大きな循環を生み出すのです。

まとめ:地域の未来を動かす“食とワインの観光戦略”

地域の食材を観光資源に変えることは、これからの観光振興において欠かせない視点です。特に少子高齢化や人口減少が進む日本において、地域経済を支える新しい仕組みとして「食と観光の融合」はますます重要になっています。その中で、ワインとの掛け合わせは、食材の価値を一段と引き立て、国内外へと広く伝えるための強力な手段になります。ワインは世界共通語であり、文化的な記号でもあるため、地域の食材を国際的な市場に乗せる架け橋としても大きな役割を果たします。

また、食材を「商品」として提供するだけでは観光客の記憶に残りにくいのが現実です。しかし「体験」として届けることで、旅そのものの目的となり、観光客を強く惹きつけることができます。例えば「漁港での朝市と白ワイン」「収穫体験とワインピクニック」「温泉宿での郷土料理とワインディナー」などは、単なる食事以上の“物語のある体験”を生み出し、観光客の満足度を高めます。その結果、滞在時間が伸び、地域での消費が増え、リピーターとして再訪する流れが作られるのです。

さらに、このような取り組みは一過性のグルメイベントに終わらず、地域全体の魅力を体系的に高める「観光戦略」そのものへと発展します。生産者・飲食店・宿泊施設・観光協会が連携すれば、地域の経済活動が一体化し、観光と地元産業の両方を同時に活性化することが可能です。こうした戦略は、地域の未来を支える持続的な仕組みへとつながり、観光振興だけでなく、地域ブランドの確立にも寄与します。

私たちは、地域の方々と一緒にこうした新しい観光戦略を形にしていきたいと考えています。

「地域の食材をもっと観光に活かしたい」

「グルメツーリズムを立ち上げたい」

そんな想いを持つ自治体や事業者の皆さまからのご相談を、ぜひお待ちしています。ワインと食材を掛け合わせた観光戦略は、地域に新しい風を吹き込みます。ともに地域の未来を動かす仕組みをデザインしていきましょう。

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