島根は実は葡萄銘醸地 “ブドウへの親しみ”
私は島根県松江市で育ちました。
その島根県は、実はデラウェアをはじめとする、ブドウの銘醸地でもあるのです。ご存知の方はほとんどいないのですが(汗。
ワインをテーマに活動をしている今の自分からすると、子どもの頃から「食べるブドウ」が身近な存在だったことは、ごく自然なことのように思えます。美味しいシーズンになると家の食卓には必ず地元産のブドウが並び、粒を頬張るたびに、その甘さと瑞々しさに幸せを感じていました。
大人になってからはワインという形でブドウと関わり続けてきましたが、僕のなかで「ブドウを食べる喜び」と「ワインを楽しむ喜び」は、どちらも原点としてつながっています。
だからこそ、故郷のブドウには特別な思いを抱いているのです。
島根が生んだオリジナル品種「神紅」との出会い
そんな私にとって、島根県オリジナルの高級ブドウ「神紅(しんく)」を深く知ったのは、実は最近のことです。
真紅に輝く粒、上品で濃厚な甘み。高い糖度と華やかな外観は、まるで“宝石”のような存在感を放っています。
ただ見た目や味わいだけではなく、「島根県が長い時間をかけて開発した品種である」という背景にも強く心を惹かれました。
自分の故郷から、こんなに特別なブドウが誕生していたことに驚きと誇りを感じたのです。
「この神紅でワインがつくられたら、どんな表情を見せるのだろう?」──自然とそんな想像が膨らんでいきました。
石見ワイナリーに眠っていた“神紅ワイン”
そう思っていた矢先、思いがけない出会いがありました。
島根県西部にある石見ワイナリーが、数年前に神紅を使ったワインを仕込んでいたことを知ったのです。
驚くべきは、そのブドウが「規格外品」の神紅であったということ。
通常であれば市場に出回らないブドウを、廃棄せずに活かす発想。
まさに SDGs 的な視点から生まれた挑戦であり、私が普段から大切にしている「ワインと食の可能性を広げる姿勢」と重なって見えました。
実際にグラスに注がれた神紅のワインは、果実味がはじけるように豊かで、独特の存在感を放っていました。
「これはもっと多くの人に知ってほしい」と心から思った瞬間でした。
池田ぶどう農園で感じた、つくり手の情熱
その流れから、当然に神紅そのものの実際の畑を見てみたくなりました。そこで、島根県庁の産地支援課にお願いして取材先を紹介していたさくことに。
島根県の雲南市三刀屋町というエリアの、まさに住宅地の中でハウス栽培をされていらっしゃる「池田ぶどう農園」の代表の「池田年弘」さんを訪ね、畑の中でお話を伺う機会を得ました。
そこには、一粒一粒を大切に育てる真摯な姿勢と、他の生産者と一緒になって、品種開発に携わった島根県を盛り上げたいという強い想いがありました。神紅は単なる新品種ではなく、地域の誇りを背負った存在なのだと肌で感じました。
生産者の目線に触れることで、ブドウは単なる「食材」ではなく、人の情熱と地域の物語が凝縮された存在だということを、改めて実感しました。その時の池田さんのインタビューも、ぜひご覧ください。
日比谷しまね館での成功体験
そしてつい先日、東京・日比谷にある「日比谷しまね館」では、神紅の生果と神紅ワインを組み合わせて販売するプロモーションが行われました。
お店は大盛況で、販売結果は大成功。
訪れたお客様が「島根にこんな素晴らしいブドウがあるのか」と驚き、手に取ってくださる姿が印象的でした。
わたし自身もその取り組みに関わり、サイネージ映像やPOP用のビジュアルを撮影・編集して提供しました。
ドキュメンタリー映像クリエイターとしての経験を活かしつつ、故郷への恩返しにつながる活動になったことを、とても誇りに思います。
神紅が教えてくれる、ワインと地域の未来
神紅との出会いを通じて、僕は改めて「ワインは単なる飲み物ではなく、地域や人をつなげる力を持っている」ということを実感しました。
神紅はブドウそのものの魅力にとどまらず、農家の想い、ワイナリーの挑戦、そして消費者の感動を結びつけていく存在です。
そして思うのです。
実際、神紅のように“まだ知られていない価値”は、日本中の各地に数えきれないほど眠っています。
私たち日本人ですら気づいていない宝物が、地域の現場にはたくさんある。
だからこそ、それを丁寧に掘り起こし、磨き上げ、ストーリーとともに見える化しなければならない。
もしそうした価値を国内外へ力強く発信できたなら、地域はもっと誇りを持ち、人々はもっと豊かに楽しめるはずです。
その橋渡しをすることこそが、いまの自分に与えられた使命だと信じています。
私はこれからも、神紅のような存在を探し、伝え、広げていく活動を続けていきます。
故郷・島根から始まったこの歩みを、全国、そして世界へ──。